ないのです。荷物が。ロッカーにあるはずの。
頭は真っ白。どうしよう。「お兄さん、ここに入れたはずのスーツケースがないんです」若い保管係に言うと、年輩の責任者らしき人に替わってくれる。「私はこの番号に入れたのに、何も入っていない」と主張するものの、そんなことはありうるはずがないの一点張り。しかしあまりにしつこく主張するので、そのまわりの扉をマスターキーで開けてくれた。しかし、ない。それじゃあと少し離れたところの扉を開けてくれる。するとまったく予測もしないboxに、着替えをいれてあった布袋を発見!なんでこんなところにあるの?と思ったものの、作業はそこまで。スーツケースは見つからないまま。ポリスには届けるようにと言われて、地上階のステーション・ポリス事務所で届け出をする。
しまった!オーデンセまでの列車のチケットを買ってある。出発はすぐだ。あわてて切符売り場に駆け込む。急ぐ時ほど混んでいるもので、なかなか順番がやって来ない。
「スーツケースを盗られたようなんです。今ポリスに調べてもらってるんで、2時間後の列車に変更してもらえませんか?」。必死の形相が幸いしてか、すぐに新しいチケットを出してくれた。
さて。もう一度地下のロッカールームーへ。ところが担当のおじさんが替わっていた。あーん。
ここでめげてはいけない。るる説明して、どういうことかと迫る。さっきのおじさんとは違う強面の保管係は、「そんなことはありえないじゃないか」と主張する。英語のなまりがきつくてよく聞き取れない。めげてはいけない。気を取り直して、もう一度、私の主張をする。
あまりのしつこさに、「ちょっとこっちに入ってこい」と言う。保管室に入ると、防犯カメラの映像を見ろと言う。プロのほこりをかけて自分たちに落ち度はないことを証明しようというのだ。こちらも望むところ。受けて立とうじゃありませんか。ビデオを見て行くと私らしき人が映っている。「ほら、これがあんただろ?」とおじさんは言うけれど、はっきりとはわからない。「そうかな?」と言うと「なんだ、自分の姿もわからんのか」と怒鳴る。モデルじゃあるまいし、自分を外側から見るなんてことはそうそうないから案外自分の姿なんてわからんもんなんだよ。
その周辺の映像を見ていくと、あっ!私のスーツケースを運んでいる夫婦連れがばっちり映っている。
「ほら、この番号はあんたが主張している番号じゃない。間違った番号のboxをロックしてしまったんだ」参りました。「すみません。私が間違えました。時間をとってくださってありがとう」とお礼を言って握手で別れました。複雑なロッカーの仕組みと慣れない両替機が悪いんだと毒づきながら、保管係のおじさんのプロ根性に脱帽した私でした。(K)